正直者でいることは、時につらいものである。昔、入社したばかりの頃、朝の電車で人事課長と乗り合わせた。何がきっかけでそっちにいったのか、あるいはどの話からでも彼はそっちに持っていったのかもしれないが、彼は定期入れから赤ん坊の写真を取り出し、「父親似って言われるんだよ」と相好を崩した。「似てるだろう?」
僕も、こういう時にどう答えるのが無難か、ぐらい理解はしている。しかし、生来、思っていないことを言うのが苦手な僕は、「はあ、そうですねえ、赤ん坊ってみんな同じに見えますからねえ、似てますかねぇ。」と正直に答えてしまった。もちろん、彼は落胆、というよりは非難がましい目で僕をにらんだものだ。その後、どこかに飛ばされるなどということはなかったので良かったが。
それから、昔、当時の彼女に、「無人島に二人だけ流されて生きていかなきゃいけないとしたら、誰と二人がいい?」と聞かれたとき、「広末かなあ」と答えたときは、ちょっとの間怒って口を聞いてくれなかった。
どちらの質問にしても、答えが一つしかない、あるいは一つしか「許されない」質問は、しないでほしいものだなあ。